婚約破棄された悪役令嬢は、気ままな人生を謳歌する

 アンジェリ―ナは、まずは前世の記憶を頼りにヤドカリの住環境を整えることからはじめた。広口で深めの瓶に、ビクターがヤドカリともに採取した砂と海水を入れる。それから隠れ家となるよう、墓石の欠片を置いた。

 この地域は年中日が差さないが、気温は安定している。アンジェリ―ナが前世で暮らしていた日本でいうと、一年を通じて、およそ春くらいの温かさが続いている。ヤドカリは寒すぎても暑すぎても弱ってしまうので、その点は幸いだった。

 餌は、野菜や果物を与えることにした。厨房でいそいそと人参をカットし、ヤドカリのいる地下室に運ぶと、アンジェリ―ナの不審な行動を危惧してあとをつけてきたララが「ぎゃっ」と悲鳴を上げた。

「なんですか、その生き物!?」

「ヤドカリって言うの。かわいいでしょ?」

「かわいいですか? うーん……」

 瓶の中を覗き込み、苦い顔をしながらララは唸っている。 

「私にはかわいさがよく分かりませんけど、とにかくよかったです、ビクター様が戻って来られて」

 諦めのようなホッとしたようなため息を残し、ララは上階に戻っていく。

 ヤドカリの壺を眺めながら、アンジェリ―ナは抑えきれない衝動に駆られていた。

(ああ、ヤドカリのために今すぐにでも新しい貝を探しに行きたい!)

 今度は、他人に頼むことなく、自分の力でかわいいヤドカリに新しい住処を見つけてやるのだ。

 だが、幽閉中のアンジェリ―ナは気軽に海岸に出かけられる立場ではない。彼女が外出するには、夜中に誰にも気づかれぬようこっそり行動するより他ないだろう。