婚約破棄された悪役令嬢は、気ままな人生を謳歌する

 途端に彼は真っ赤になり、こくりと頷く。

「あなたのためなら、どこへでも」

 ビクターは、思った通り恥ずかしいセリフを惜しげもなく吐いた。

「ありがとうございます。首を長くしてお待ちしておりますわ」

 アンジェリ―ナがますます笑みを濃くすれば、ビクターはその目に喜びを滲ませた。

 アンジェリ―ナが調べたところによると、この世界にヤドカリは存在しない。この世界はアンジェリ―ナが前世で暮らしていた世界よりも海の規模が小さく、海洋生物の種類も少ないのだ。

 彼はこの塔を出たきり、もう帰ってはこないだろう。

 それこそが、アンジェリ―ナの狙いだった。

(おそらく、ビクター様は私のために必ずヤドカリを見つけようとするわ。そして、世界中を旅するでしょう。そのうちに新たな目標を見つけ、私のことなど忘れるはず)

 その日の深夜、ビクターは愛馬のルドルフに乗って、ヤドカリ探しの旅に出た。果物を買いに行ったときと同様、ララとトーマスに見つからないよう、昼過ぎには戻ると言い残して。

 そして案の定、数日が過ぎてもアンジェリ―ナのもとに戻らなかったのである。