婚約破棄された悪役令嬢は、気ままな人生を謳歌する

　ツンデレキャラのビクターは、ゲーム内では最後の最後にしか愛を口にしなかった。

　それなのに、『愛してる』の重みがなくなるくらい、アンジェリ―ナはもう何度も彼の口からその言葉を耳にしている。

　ビクターは、腑に落ちない表情を浮かべた。

「本来の俺？　あなたがどう思われているのか知らないが、俺は俺です。今ここにいてあなたを懸命に求めている姿こそが、本当の俺です」

　アンジェリ―ナは、必死の剣幕でビクターに訴えかける。

「よく考えてくださらない？　私のどこにそんな魅力があって？　エリーゼ様のような清楚さも、淑やかさも持ち合わせていないわ。おまけに、もやしを栽培したり、あなたに無茶を言って果物を調達に行かせたり、推しがいたり、ドブネズミを買っていたりするのよ。よく考えて？　そんな私に、本当にあなたを惹きつけるような魅力があって？」

　自分で言ってから、アンジェリ―ナははたと口をつぐむ。ネクラ趣味嗜好の自分を、心のどこかで恥じていたことに気づいたからだ。社交的になろうと努力しても叶わなかった前世のつらい思い出が、いまだくすぶっているのだろう。