以前からあった見合い話に応じた。

相手は先代から続く実業家の次男坊である。

なんでも息子が3人いるらしい。

その誰もが妻をめとっていないと聞かされた。

特に問題ないかと思われたが

実際はとんでもないご子息たちであることがわかった。

まだ暖かな日が続く初冬の日曜日に縁談の席に向かった。

先方のご実家は古風な作りの日本家屋だ。

自慢の日本庭園が当然ながら通されただだっ広い洋間から

視界いっぱいに広がっていた。

双方の両親が一番気をもんでいるようで

私は特に弾んだ気持ちもなく平静であった。

私同様相手もどうでもいいかのごとくの態だ。

だらけた次男坊を装っていることは間違いないと思った。

どちらも内心は戦闘態勢といっても過言ではない。

様子見がビンゴだ。

家政婦が静々と桜茶を運んできてテーブルに添えた。

クリーム色の滅多にない色合いの友禅で

一応振り袖姿の私は化粧も薄めに施し

ネイルはピンク系のベージュと超控えめに仕上げてあった。

普段は完璧なメイクにブランドスーツをビシッと身体に張り付け

オフィスに大声をとどろかせて部下を管理しまくっているとは言えない。

自己紹介を終えてあれこれ質問が始まった。

「温子さんのご趣味は?」と母親に聞かれた。

まさかエアボクシングとは口が裂けても言うわけにいかない。

「はい、ジョギングとスイミングを少し。」

「まあ、アクティブで素敵ですわ、ねえ、あなた。」

「うむ。」

先方のご両親はどうでもいいほど上品であった。

「優一、温子さんをお庭へご案内して。」

「わかりました。」

母親には逆らえない行儀の良い息子に見えた。

次男坊は音もなく席を立って私の椅子を引いて促した。

「温子さん、こちらへどうぞ。」

女の扱いは慣れているようだ。

恐らく酒にも強いだろうと私は踏んだ。

機会があったら飲みつぶして本性を暴いてやりたいと思いながら

内心で「カッカッカ。」と密かに笑った。

 
      ~ 完 ~


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   ~ 北原 留里留 ~