「羽咲ちゃんと一緒にあのひったくり捕まえた日なんだけどね、私が怪我したんじゃないかって心配してくれたらしくて、クラスメイトの前で抱きしめてきて、俺と付き合えって――」

「わーっっっ! なんか総真が心配になってきたなー! 想さんにでも電話すっかなー!」

わっ⁉ なに、急に! いきなり大声を出したお兄ちゃんにびくっとしてしまっている間に、お兄ちゃんは机の上にあったスマホをいじり始める。

お、お兄ちゃん……突然の情緒不安定?

お兄ちゃんまでおかしくなっちゃった? と、目を白黒させる私の隣の那也お姉ちゃんはくすくす笑っていた。

「あ、もしもし想さん? 由羽だけど、今総真って近くにいます?」

……え。ほんとに想さんに電話してるの⁉

「お兄ちゃんやめ――」

やめて、とスマホを取ろうとしたけど、スッと椅子から立ち上がったお兄ちゃんの身長にかなうわけがなく、私の手は行き場を失った。