「お、落ち着け、お前は普段からヘンだけど今は異常に怖い。悩みがあるなら言ってみろ、この距離で聞くだけ聞いてやる」
蒼ざめたお兄ちゃんが、これ以上近づくなと言わんばかりに右手を前に出してくる。
この距離、と言うのは、自分の部屋の壁際の本棚に追いつめられたお兄ちゃんと、若干痛みがある額(たぶん紅くなってると思う。血は出てないはず)で半泣きの私が部屋の入り口にいるという図だ。
……今更だけど、傍から見たらかなりやばいかもしれない。
「あ、羽咲ちゃん。お邪魔してます」
「! 那也お姉ちゃん!」
背後から声がして振り返れば、グラスの乗ったお盆を手にして階段をあがってきた那也お姉ちゃんがいた。
つい最近お兄ちゃんの彼女さんになった遠江那也さん。
私は那也お姉ちゃんって呼ばせてもらっている。
お兄ちゃんは付き合って早々に那也お姉ちゃんをうちに連れてきていて、また那也お姉ちゃんのおうちにもお邪魔していて、お互いの家族公認のお付き合いだ。
仲良きことはよきかなよきかな。
「羽咲ちゃん、おでこが真っ赤だよ? どうかしたの?」



