泉はサッと俺の目を大きな手で覆った


『目つむっとけ。もう、頑張らなくていいって言ったろ?』


その声は、俺が向けられてきた言葉の中で

今まで聞いた、どんな人の声よりも優しかった



だから俺は言われた通り、すっと目を閉じた


目を閉じると一瞬別の世界にいるような感覚に陥った

その時


泉が何をしたのか


父親や女、大和に何をしたのか、声だけは聞こえていた。
けど目を閉じて深呼吸すれば、その時は何も聞こえなくなった

次に目を開いたのは


『終わった』


そう泉に言われた時だった


目を開けると家の外にいた。
あれ?

そして泉は顔に傷を増やしている
でもとても笑顔で言った



『帰るぞ』と



その片手には自分のランドセルと、俺のランドセルを持っていた



『聞き忘れてたけど、お前何歳?』

『…10歳』

『そうか。俺は12歳だ』



はっ
本当に笑えるよな

自分を救ってくれたのは、大人や、周りにいる人ではなく



自分より2歳年上なだけの



ぶっとんだ小学生だった


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