愛は惜しみなく与う④

そんな時


お母さんが夜勤なのに帰ってきた


あれ?はやい。いつもは朝に帰ってくるのに。そう思って玄関に行こうとしたが、俺とは目を合わせてもくれない。話しかけてもくれないことを思い出し、足が止まる

お母さんは


俺のこと嫌いになったのかな


父親に言われた。お母さんの前では極力視界に入らないようにしろと。

早く帰ってきたお母さんに、お疲れと言いたかった


でも


できなかった



そしたら玄関で声がした


『誰の靴よ、これ…』


お母さん?
優しい声ではなく、とても冷たいお母さんの声がした

当時俺は7歳

何も分かってなかった


『お母さん?』

気になってリビングの扉をあけて、玄関を覗くと、そこには、梨沙のハイヒールを握りしめているお母さんがいた



何ヶ月も、お母さんは俺を見なかった
ここに居たのに
居ないように接してきた
また無視をされるのだろう

そう思ったのに


お母さんの目は俺を捉えた


『朔……?』



その瞬間どれだけ嬉しかっただろうか
どれだけ待ち望んでいたか

お母さんに名前を呼ばれるのを