「そうさせてもらうよ。ありがとうな」

春山が勇吾の肩をポンっと叩いてきた。深くシワの刻まれた手だった。
腰の曲がった春山が体育館の外へ出て行くのを見送り、勇吾は再び後片付けに取り掛かった。

勇吾は入学式の壇上に飾られていた花瓶を抱えて体育館から出る。重たいが、どうにか一人で運べそうだ。

ーーオオオォォォオオオ。

トイレが鳴いているように風が漏れている。怨念の声のように勇吾には聞こえた。
外壁の一部が剥がれ落ちる。

長年雨風にさらされてきたあのトイレが壊れるのも時間の問題だろう。
取り壊しの工事のために足場が組まれ、シートで覆われているが、作業員が次々と怪我をするため事実上の中止となっていた。