――真正面から力でぶつかっても、あいつには勝てない。

別に死ぬことは怖くなかった。
ただ、この焼けつくような怨みを残したまま、死ぬことがイヤだった。

だから勇吾は決意した。
――あいつに復讐するには、たっぷりと時間をかけなければならない、と。

昼休み――勇吾はひと気のない図書館で、分厚い本を読みあさっていた。
ノートを広げ、熱心にメモをとる。

勉強嫌いで成績の悪かった勇吾の今の姿を見たら、杏奈はなんて思うだろう。
感傷にふけりそうになったので、頭を横にふり、文字を追っていく。

――あいつに勝つためには、力じゃない。知恵がいる。
そう、あいつが思いつきもしないような方法をぶつけなければならない……。

勇吾は視線をあげ、窓の外をにらみつける。
その先には、あの忌まわしい古ぼけたトイレがあった――。