七星くんは手を石鹸で洗い終えると、
エプロンをクルクル丸めながら、
自分のバックに行き、
またキッチンに戻ってきた。
「一颯先輩の部屋、
もっと見たかったです」
クルミちゃんの
ミルクティーみたいな甘い声が、
2階から聞こえてきた。
みんな、降りてきちゃうんだ。
現実に戻るのは、
いいタイミングだったのかもしれない。
七星くんの隣にはいつも、
お人形みたいにかわいいクルミちゃんが、
そばにいるんだから。
私なんかが、
好きになってもらえるはずないんだから。
そう思っていると、
七星くんのふんわりと優しい声が
耳に届いた。
「りっちゃん、しゃがんで」
「え? あ……うん」
言われた通り、
キッチンの作業台の前にしゃがむ。
七星くんも私の目の前にしゃがんだ。
みんながリビングに戻ってきても、
みんなから見えなさそうだけど……
「りっちゃん、お誕生日おめでとう」
そう微笑みながら、
七星くんの顔が私に近づいてきた。
七星くんの手が、私の後ろに回った。
近い!
顔、近すぎです!!
いったい何が起きているの?



