……あの子は本当に俺を信頼しているんだな。もちろん手を出すつもりなどないが、紳士的な俺がすべてだと思われているのは、少々決まりが悪い。


『いつも優しくて、誠実な専務』


あの言葉の通り、大多数の社員が同じ印象を抱いていることだろう。皆がフランクに接する中、常に敬語で〝私〟の一人称も崩さず、不破社長に献身的に仕えている姿を見せていれば当然だ。

──しかし、そこに隠されているだけで、また別の自分も確かにいるのだ。いわゆる、サディスティックな一面を持つ自分が。

先ほど、小金井美香に対してその片鱗を露わにしたのだが、森次さんはたいして気に留めていないらしい。

昔は、害を及ぼす存在だと判断した相手に対しては、遠慮なく冷酷非情な態度を取っていた。今はだいぶ丸くなったが、時と場合によってSっ気を発揮している。

気を許せる好意的な相手にも毒を吐いたり、意地悪をすることがあるが、こちらは愛情を込めてのものだ。

後者に当てはまるのが社長である。そして……森次さんも。

彼女には、なんとなく自分とうまく馴染むような感覚を抱いていたが、偽りの恋人関係を始めた初っ端から、こんなに意識するようになってしまうとは予想外だった。

淡々とした普段と違ってあまりにも可愛い反応をするから、かまいたくなってしまうではないか。