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次の日の朝、トロイア王と王妃は悪びれる様子もなく、朝食の場へとやってきた。

「おはようございます。陛下、アイリス王女を帰していただけませんこと?」

まさかの発言がった。

「アイリス王女は帰りたくないようですが、なぜですか?」

「ふふふっ……あの子は悪魔の子よ!災いが起きてからでは大変でしょう」

「王女が帰りたいのなら仕方がないが、望んでいない。だから王女はわたさない!!」

何が面白いのか、くつくつと笑う王妃。

「あーーら……災い起きても良いと?」

「かまわない!!」

アランの態度に何かを感じ取った王妃は目元を細めた。

「あらあら……ほほほ!そういうこと、分かりました。とりあえず今回はアイリス王女を置いて帰
りますわ。陛下ごきげんよう」

そう言うと、椅子から立ち上がりアイリスに会うこともなく、帰って行った。


アランはトロイアの馬車を見送りながら、思いにふけっていた。

ずいぶん簡単に引いて帰って行ったな?

何だかいやな予感がする。

トロイア国がバカなまねを起こさなければ良いが……。



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トロイア王と王妃が帰って数日後

精神的に落ち着いてきたアイリスだったが、ふとした瞬間声も上げずに涙をこぼしていた。

アランは、最近になって気づいたことがある。

アイリスのあの人形の様な表情は、悲しみを封じ、涙を流さないための手段だったことを……。


アイリスの苦しみ

悲しみ

すべてを受け止めたい

アランには涙をこらえるアイリスが小さな子供の様に見えた。

守りたい

笑顔にしてやりたい

庇護欲を搔き立てられる。

どうしたら幸せにしてやれるのか、思い悩むアランだった。




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あの日からアラン様は毎日会いに来て下さる。

忙しい公務の合間をぬい会いに来てくれる。

その時間がどんなに嬉しいか……。

そして帰り際には、かならずギュッと抱きしめてくれる。

今日も忙しいなか会いに来てくれた。

「今日は忙しく、もう行かねばならない。顔が見れて良かった」

ギュッと抱きしめると、アランが部屋から出て行こうとした。

あっ……。

アラン様が行ってしまう。

ふいに胸が押しつぶされそうになった。

いつからこんなに一人が怖くなったのか?



行かないで……。



一人にしないで……。



「アラン……様……」


扉の取っ手に手をかけたアランが振り返った。

「どうした?」

アイリスは胸の前で手を組み俯いていた。

「忙しいのにごめんなさい……もう一度……ギュッて、してもらえませんか?」


真っ赤な顔を隠すように俯いていると、答えが返ってこないため、不安になりアランをちらりと見た。

「だめですか?」

ふっと笑ったアランが両手を大きく開く。

「おいで」

アイリスはアランの胸へと飛び込んだ。


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数日後アランの仕事が落ち着いているということで、庭でのんびりとお茶を楽しんでいた。


「アラン様、先日は過去の話をする際、取り乱してしまい申し訳ございませんでした。ずっとあやまろうと思っていたんですが、遅くなってしまって」

「いや、過去の話をするのは、辛かっただろう?無理やり聞き出してしまって、すまなかった。
だが、王妃の暴言や態度は少し度を越している。それに、あの王の様子……何かが引っかかるん
だが……」

「アラン様?」

「あっ……いや、いいんだ。とりあえず、王と王妃は帰ってしまったし、向こうの出方を待つし
かないな」

アランとアイリスがのんびり午後を過ごしていると、ラルが走って来るのが見えた。

「陛下!トロイアの司祭長から書状が届きました」

書状を受け取ったアランは、器用に封を切り中身を確認すると、その内容に驚愕した。

「なっ……どういうことだ、すぐに戦略会議だ皆を執務室へ」

「わかりました」

ラルは一礼すると城の中へと入って行く。

「アラン様何かあったのですか?」

「心配しなくて良い」

心配するアイリスの頭の上にポンと右手を乗せると、アランは優しく微笑みアイリスを包み込ん
だ。

長身のアランの腕の中にアイリスはすっぽりと入ってしまう。

アイリスは上目遣いでアランを見上げた。

すると青灰色の瞳と目が合いアランの顔がゆっくりと近づいてきて、チュッというリップ音がなった。アランに口付けられたことに気づいたアイリスは顔に熱が集まり真っ赤になってしまう。

アランは自分の腕の中でかわいらしく顔を赤らめるアイリスを見て強く誓った。

この悲劇の王女を元の人形に戻してなるものか、必ず自分が幸せにしてみせると。