はーー。

陛下……行ってしまわれたわ。

陛下はガイロを飼っても良いと言ったわよね。

良かった。

まさかガイロがトロイヤからフィルタイトまで追いかけて来るなんて思わなかった。

今日は天気がいいと言うことで、庭でお茶にしようと出てくると、芝生の上に見覚えのある灰色のモフモフに気がついた。

思わず走り出しモフモフを抱き上げる。

「ガイロ!!」

こんなにぐったりして……。

トロイアからフィルタイトまでの距離を、この小さな体でどうやって、やって来たのか、まったく分からない。でも、そんなことはどうでも良かった。


「ガイロ、しっかり!!目お開けて!!」

アイリスの声にガイロが反応した。

「キュン……」

生きている!!

「エイミー!!ガイロに何か……」

「水と食べ物ですね!すぐに持ってきます」

エイミーはアイリスの気持ちを察し走り出すと厨房へと向かった。

ガイロはエイミーが持ってきた水をペロペロと飲み始め、のどを潤すとお腹がすいたのか、エイミーが持っていたパンに飛びついた。

「それにしても、この子すごいですね。ご主人様を追いかけてここまで来るなんて」

「本当ね」

その時ガイロの着けていた首輪がキラリと光った。

「あれ?この銀の首輪はアイリス様がつけてあげたんですか?」

「いいえ、違うわ、そういえば……誰かしら……?」

「銀の首輪なんてさすが王女様のペット。それにしてもガイロちゃん汚れてますね、お風呂に入れてもいいですか?」

「お願いしてもいい?」

「お任せ下さい!!」

エイミーはすぐにお湯の用意を始め、手際よくガイロをお風呂に入れると、灰色の毛が真っ白になっていく。

「さあ、きれいになったわよ」

ガイロをお風呂から出すとタオルでお湯をふき取っていった。

ガイロも自分で自分の体を乾かそうとブルブルと体をふるわせ水分を飛ばす。

ガイロの毛がしっかり乾くように、暖かい庭にもう一度出ると、すっかり元気になったガイロがチョコチョコと走り回りペロペロとなめてきた。

「ガイロやめなさい、悪い子ちゃん」

元気になったガイロの姿にうれしくなっていると、ざっと騎士二人が後ろに下がった。

どうしたのだろうと後ろを振り返ると、そこには眉間に皺を寄せた陛下が立っていた。

怒っていらっしゃる?

勝手に動物を城に入れたことを怒っているのかしら?

ガイロを捨てて来いとい言われたら……。

「動物はお嫌いですか?」

聞いてみると「いや」と一言。

よかった嫌いではないのね。

思い切って城で飼っても良いか聞いてみる。

「よい」

返事が返ってきた。

良かった。

ほっとしていると、顔を赤くした陛下が足早に城の中へと入っていってしまった。

陛下……。

顔が赤いようだったけれど、体調でも悪いのかしら?

もうここにいない陛下の姿を思い浮かべ心配するアイリスだった。