アイリス王女は少しずつ城の者たちの心を鷲掴みにしているな……。

その笑顔を自分にも向けて欲しいと思いながら庭へと抜ける廊下を歩いていると、中庭にある木陰から笑い声が聞こえてきた。


誰の笑い声だ?


そこにいたのはアイリス付きの護衛騎士二人とエイミーだった。

騎士二人は頬を赤く染め、なぜかエイミーはプルプルと振るえながら地面をたたいている。


何だ?


三人に気づかれないように近づいて行くと、小さくて白い子犬?が尻尾をふり木陰にいたアイリスと遊んでいた。

子犬か?

少し違和感を感じるが……。

アイリスが子犬を抱き上げると、子犬はアイリスの顔をペロペロとなめている。

「うふふ。ガイロやめなさい、悪い子ちゃん」

アイリスのかわいらしい声が聞こえてくる。

アランは皆に気づかれないよう、そっと近づいていく。

アランがアイリスの後ろまで来ると、アランに気づいた騎士たちが一歩後ろに下がり、騎士の礼
をとる。

騎士がザザッと後ろに下がったため、異変に気づいたアイリスが後ろを振り返った。

アランは眉間に皺を寄せ、頬を赤く染めていた騎士二人を睨みつけた。すると騎士たちはみるみる青くなっていったが、そんな騎士二人を無視してアランはアイリスに近づいて行く。騎士二人を睨みつけるアランの姿に、何を勘違いしたのか王女はプルプルと震えながら目に涙をため上目遣いで俺を見てきた。

王女のそんな姿に体が震えだす。


っ……くそっ……。


まただ、何なんだ、この体の芯から沸き立つような震えは……。

アランが両手を握り締め黙っていると、アイリスが震える唇をそっと開いた。

「こ……この子はガイロ、私のお友達で……トロイヤからついて来てしまったのです。あの……動物はお嫌いですか?」

「いや……」

「あの……この子を城で飼っても……」

「……良いぞ」

それだけ言うとアランは足早に自室へともどった。

ぐっ……っ……くそっ!!

今まで国のトップとして感情を表に出さないよう注意してきた。

それなのに感情を抑えることが出来ない。

それに、何なんだあれは!!

ガイロと言ったかあの犬を愛でている時の姿……。

あのかわいらし姿に釘付けになってしまった。

護衛騎士二人もアイリスに釘付けになっていたな……。思わず騎士を睨みつけてしまった。

青ざめた騎士二人を横目に王女を見ると、王女も青くなっていた。

プルプルと震えながら上目遣いで犬を飼いたいと、願いをこう姿……。

つっ……「良い」と一言しか言えなかった。

アイリスの姿を思い出し、右手を口元に押し当て、顔を赤くしていると、ラルがぎょっとした顔をしているのが目に入った。

「陛下またですか?」

ラルのあきれた声がしてくる。


「うるさい!!」