◇


 6月にダウンジャケットが恋しくなるなんて、思ってもみなかった。

「さんむ……!」

 初めて入ったスケート場は、想像より遥かに寒い。

 当たり前だけど大きな氷があって、それが溶けてしまわないよう室温が低く設定してあるためだ。

「ここのリンク。10度ないくらいだったかなー。あったかい方だと思うけどねえ」

 どこがだよ。

 成澤はさっき外でウォーミングアップをしてきたみたいだから寒くないだろうが、

「冷凍庫の中のアイスにでもなった気分」

 それを突っ立って眺めていただけのわたしにとっては、極寒。

「食べていい?」
「猛毒入りですよ」
「大歓迎って言ったら」
「オヤスミナサイ永遠に」
「エリナちゃんて外側はトゲトゲだけど、中はとろーり甘そうだよねー。かじられたい? それとも……舐められたい?」

 ただでさえ凍えてるのに鳥肌たつようなこと言うのはやめろ。