「お越し頂きありがとうございます。咲夢さん。」

昨日の電話で指定されたカラオケボックスについた私を、女性記者は丁寧に出迎えた。
あの男とのことがあってカラオケボックスには当分近づきたくもなかったが、話の内容を他者に聞かれて私があの男の妹だとバレてしまう事を考えるとノイズだらけのカラオケボックスは最適だし、何より今の私は場所を選んでなどいられなかった。

「改めまして、私、週刊星月の花山琉璃華(ハナヤマ ルリカ)と申します。本日は宜しくお願いしますね。一ノ瀬咲夢さん。」

名刺を渡しながら自己紹介した彼女は優しそうに微笑んだ。
でも…

「すごいですね記者さんって…私の名前…いつの間に調べたんですか…て言うかどうやって…」

「それが記者の仕事なんですよ。でも安心してください。私は決してあなたの敵ではありませんから。今回の取材の出所があなただという事も、あなたについての記事も一切書きません。私が書くのはお兄様のことだけです。ご家族に罪はありませんからね。」

花山記者はそう言うとニコッと微笑んだ。