私はいつの間にかその人に平手打ちをしていた。
ドラマか何かならここで『この人でなし』と、お決まりのセリフを言うのだろうが、この時の私には言葉を発することはできなかった。

「…へぇ〜。サユ、俺の事叩けたんだ。いいねぇ…それでこそ少年Aの妹だ…」

そう言って不敵な笑みを浮かべながらその人は私の頭を優しく撫でた。が、私はその手を咄嗟に払い除けた。

「おっと。…あ、そうそう。何で俺が轢かれそうになったサユを助けたか知りたかったんだよね？あれはさっきも言った通り、自分自身を実験台にしたんだよ。人を傷つけた次は自分を傷つけてみたかったんだ…。」

聞くに耐えられない話の数々に、ついに私は部屋を出ようとした。しかし、

「おぃ。人のこと呼び出して質問までしておいて逃げんのか？」

その人は先程までの狂気じみた口調から一変して、ドスの効いた低い声で私を脅した。私にはもはやその人が赤の他人の凶悪殺人鬼にしか見えなかった。自分と血を分けた兄妹だなんて考えただけで虫唾が走る。