「ハハハ。サユは本当に優しいんだな。でも…どれだけ外面取り繕ったって所詮俺は人殺しなんだ。それも3人もの命を奪った凶悪犯。あの時まだ9歳だったから施設で済んだものの、成人だったら死刑になってたはずだ。俺は…少年法に手厚く守られた化物なんだよ。」

そう言って今度こそ出ていこうとするお兄ちゃん。でも、私も怯む事なくお兄ちゃんの腕をぐっと掴んでいる。

「お兄ちゃん…確かにお兄ちゃんはやり方を間違えたと思う。でも…でも被害者にいじめられてた人は?!被害者が万引きしたコンビニのオーナーさんは?!被害者が虐待したウサギは?!…お兄ちゃんが殺した人たちがいるのとは別にお兄ちゃんに救われた人たちだっているんだよ?!…お兄ちゃんは自分を犠牲にしすぎだよ…!犠牲になるのはもう充分だよ…だから…騒ぎがおさまったらまた家族4人でやり直そう?!」

必死に懇願する私に、ついにお兄ちゃんがまた振り向いた。

「サユ…お前はお人好しすぎるよ。確かにそいつらは救われたのかもしれない。でも、どれだけ言い訳したってあれは俺が自分勝手な正義を振りかざしてやった自己満足の私刑に過ぎない。9歳当時は『俺は悪い奴を消してやったんだ。それのどこが悪いんだ?』って思ってたよ。でもさ、施設で色んな人に支援されて分かったんだ。俺のやった事は法律による裁きじゃなく、単なる自分勝手な殺人なんだってね。」

終始落ち着いた様子で淡々と話すお兄ちゃんの手を、私は両手でぎゅっと握った。

「大丈夫…大丈夫だよお兄ちゃん。私ね、決めたんだ。世界中の皆がお兄ちゃんの敵だとしても私だけは一生味方でいるって。だから…私はお兄ちゃんのしてしまった罪も全部受け入れるよ。私も一緒にお兄ちゃんの過去を背負って生きていく…だから…だからお兄ちゃん…」

『これからもずっと一緒に居たいよ』
その一言を言う前に大粒の涙が溢れ出した。
喉がギュッと締め付けられて、言いたいのに言えない。すると、お兄ちゃんはそっと優しく私を抱きしめた。