お母さんはいきなり近づいてきて、あたしの顎をくいっと上にした。

「響に近づかないでくださる?メイドか何か知らないけど、変な誘惑するのはやめて頂戴」

誘惑なんてしてないし。

「あたしは響の専属メイドです。ですから、近づかないというのはお約束出来ません」

あたしがそう反論すると、お母さんは怒鳴った。

「庶民のくせに無礼ね!!」

響があたしとお母さんの前に立った。

「母さんだって、庶民と結婚したくせに何言ってんだよ」

え、響のお父さんって元々庶民だったの?

「あの人はキャリアがあるからいいのよ」

「華だって、俺のために尽くしてくれてる」

「それとこれとは……」

「奥様。そろそろお時間です」

お母さん専属の執事が来て、騒ぎは収まった。

お母さんの後ろ姿を見ながら、響は呟いた。

「結局、何しに来たんだよ」

あたしもそれ、思った。

西宮さんはその呟きの答えを教えてくれた。

「奥様は響お坊っちゃまのお姿を見に来られたのです」

「わざわざ来なくていいっつーの」

いいな、そこまで愛されていて。

あたしはちょっぴり思った。