真城side
最初は、ただの隣の席の人だった。
小柄で、黒髪のボブの、ちょっと童顔な子。
特別な美人ではないし、相当目を引くわけじゃない。
だけど、
先生に頼まれることに笑顔で返事をしていたこと。
消しゴムを忘れて、どうしようかと困っていたとき、何も言っていないのに貸してくれたこと。
校舎案内も、順番を考えてわかるように説明して歩いてくれたこと。
少しずつ、彼女の良いところを目の当たりにするたびに、彼女のかわいい笑顔を見るたびに、
気づかないうちに、惹かれていた。
だから、
彼女の取り出したスマホの画面に男の人が映し出されたとき、心臓が握りつぶされた気がした。
彼氏がいたら、どうしようもないじゃないか。
だから、そんな人のスマホの画面について聞いたらダメだろうってわかっているのに、
つい、聞いてしまった。
そうしたら、結果は驚くもので。
どうやら、彼女はアイドルのファンをしていて、その人は彼女のいわゆる『推しのハルトくん』らしい。
しかも、僕の思っていたとおり、そのハルトくんと僕が似ていると彼女も思っていたようで、
「真城くんを推しにさせてほしい」と、そんなことを言ってきた。
…そんなの、ダメに決まってる。
君の、推しになんてなるわけないだろ?
それからは、彼女にだけ猫かぶりをやめた。
理由はもちろん、推しになんてされたくないから。
この気持ち、どういうものか君は分かってくれないんだろうけど。
だから、分からない君のために、ちゃんと言ってあげる。
君に彼氏がいたかと思うと、辛くてどうにかなりそうになること。
他の男子と話すときの笑顔が、羨ましくて仕方ないこと。
何より、もっと一緒にいたいと思うこと。
全てが、その理由だから。
……ちゃんと、聞いててよ。



