真城くんは推しになりたくないらしい。



「伊住さん、おはよ」

「あっ、うん、おはよう!」


………

「そこの問題、教えようか?」

「え、教えてくれるの?」



………………

「ねぇ、伊住さ」「ちょっと待って‼︎」


お、おかしくない?

挨拶するのはいつも私からだったし、
解き方だって聞いてやっと教えてくれるくらいだったし、
そもそも、話しかけられること自体ほとんど無かったのに!

「今日の真城くんなんか変だよ、私にすごい話しかけてくるじゃん!いつもなら嫌がってるのに!」

そうやって言うと、彼はその整った顔でキョトンとする。…イケメンはキョトンとすると可愛くなるのか……かわいい…。

「だって、伊住さんは優しい人が好きなんでしょ?」

「無理して猫かぶるつもりはないけど、優しくするくらいできる」

私を見つめて、そうやって平然と言ってくる彼に、

「……ッ」

優しい真城くんはさすがに心臓に悪すぎるって…‼︎だって、私が優しい人が好きだからって、

なんかその理由、まるで……。


あ、いや、そんな訳ない。ないない、断じてない。


………ジーーーーーー

どれだけ見つめてもこんなにかっこいい人が、そんなわけない…。

「…(伊住さんに見つめられてる…恥ず……)」



私が真城くんを見つめて、その綺麗な顔に感動しているとき、


「ひなちゃん、桜ちゃんと真城くんってもう付き
合ったの?」

「あー、もうそろそろでしょうねぇ、みんなで真城を応援するのよ」

遠巻きに女子たちが、私たち2人を優しく見つめてくれているなんて、知りもしなかった。




そうして、心臓に悪い1日を乗り越えて、
さぁ、帰ってハルトくんでも見よーとスクールバッグに荷物を詰めているときだった。

コンコン、と指で机を叩かれて、
見ると、真城くん。

「どうしたの?」

そう聞くと、真城くんはちょっと照れたように、

「…一緒に帰らない?」


…、そんな爆弾的提案を持ちかけてきた。

え、ほんとに、どうしちゃったの。


なんか、ちょっと、一緒に帰りたいとか思ってしまったけれど。
私なんかが、真城くんといるなんて、なんか自分に引け目しか感じないし…。

「真城くんのようなお方にお誘い頂けて光栄なんですけど、ちょっと心臓がもたないといいます か……」


そうやって話し出すと、明らかに真城くんはムッとしだして、

「…じゃあさ、アイス奢るよって言ってもダメ?」

……アイス⁉︎

バッと、思い切り顔を上げてしまった。

なんだって、この人は私の大好物がアイスだと知ってるんだ。

どうやら目を輝かせてしまっているらしい私に、彼は顔を綻ばせると、

「…最近できたアイスクリーム屋さん、すっごい美味しいんだって」

もう、決定事項だと言うように、

彼はその右手を、優しく私の左手に絡ませて、
目を細めて微笑んだ。

「…行こっか」

もう、そうやって言われたら、断るための言い訳なんて考えられなくて。 

…実は、本当は、一緒に帰りたくて堪らなかった自分がいたことに、


気づいてたってこと、内緒にさせてほしい。