「ここが視聴覚室で、あそこの緑のレンガ造りのところが図書室。」
「すごい、前いた学校よりも広い」
非常に緊張しつつも王子と巡る校内。
もう終盤も終盤で、あとは保健室の場所を教えたらミッションコンプリート。
私に課せられた使命は、王子に学校設備を教えることなのだから全うしなくてはね!
王子の言葉に、「広いんだー、やったー」と何とか返事して、
「最後はこっちだよー」と、保健室の方へ案内しようとした、
そのとき。
ポケットがヴーヴーと震えた。
あ、スマホの通知だ。
普段学校にいるときには鳴らないのに、鳴るってことは、もしかして何か重要な知らせ?
私のスマホの音に気づいたらしい王子も、私の左斜め後ろで足を止めて待ってくれている。
「ごめんね、すぐ終わるから確認させて!」
急いでスマホを開こうとしたとき、
そういえばロック画面が
私的いちばんかっこいい瞬間のハルトくんだということをすっかり忘れて、しっかり登場させてしまった…‼︎
後ろには、真城くん。
……いや、まさか、人のロック画面なんて見ないよね…?
と、思っていたのに、そんな期待は一瞬で崩れ去っていくもの。
「…ごめん伊住さん、見ちゃったんだけどその人、伊住さんの彼氏?」
聞きたくて堪らないとでも言うように聞いてきた彼に、頭に浮かぶのは「ヤバイ」の3文字。
「いや、彼氏じゃないんだけどね…」
と言ってヘラヘラ笑っても、依然として真城くんはその話題から離れたくないらしくて。
「似てないなら申し訳ないんだけど、なんかその人、僕に似てない?」
………ヤヴァイ。
ない頭で、それはもう必死に最適解を求めたけれど、所詮ない頭。
私の導き出した、苦渋の解は……、
「この人はアイドルでして、私の推しのハルトくんという方なんです!
そして今仰られた通り、真城くんはとてもとて もハルトくんに似ていらっしゃる!
ぜひとも、真城くんも推しにさせていただきた いんです!」
……
やってしまったーーーーー!!!
よりによって、なんで私のその方向にした⁉︎
ほらほら、真城くんもどんどん眉間にしわが寄っていって……
「え、嫌なんだけど」
先ほどまでの王子様感漂う真城くんは見当たらず、どうやら初日で私は嫌われてしまったらしい…‼︎
軽くショックを覚えつつも、
ハルトくんの普段見せない表情だと思ったらなんだか萌えてきてしまった…‼︎私のようなヲタクはウザくて申し訳ない…‼︎
「ごめんなさい、推すことはやめられないので陰ながら推させてください!」
もうここまできたらヲタクパワーでいくしかない、と覚悟を決めた私。
「いや、君の推しにはなりたくないよ」
相当嫌がっている真城くんを強引に率いて保健室の場所を教えて、私たちは解散した。
その後、そういえば見ていなかったスマホへの連絡を確認すると、それはお母さんからで…。
〈さくらー帰りに牛乳買ってきてー〉
……え、私このためだけにハルトくんのロック画面見られて、初日に真城くんに嫌われたの?
そう思うとなんか腹立たしくて、腹いせに生クリームを買って帰ってやろうかと思ったけれど、
小心者の私は、しっかりと牛乳を買って帰宅したのでした……、はぁ。



