僕の答えは、きっとこの先も変わらない。

「誰よりも、好きに決まってる」

そんな当たり前のことを聞くまでもない。


僕の返事に納得したように頷いた麻生さんは、はじめて僕に笑顔を見せて、

「ほんっと、あんたら大馬鹿よね。」

「早くメール送るなり、家に押しかけるなりしなさいよ。真城が動かない限り、永遠に別れたままなんだからね。」


そう言いながら立ち上がって、片方の肩にスクールバッグをかけて、


手のひらをヒラヒラ振りながら教室を出るときに



   私の大事な親友、大切にしてよね



そう、威圧感の取れた優しい声で呟いてから、麻生さんは帰っていった。


彼女と話して初めて知ったこと、気づいたこと、たくさんあるけれど。


麻生ひな、あの人が伊住さんの親友である理由も、ちゃんと分かった。


僕も、スクールバッグを持って、

早歩きで、いや、途中からもう走っていたけれど。

急いで、伊住さんの元に行かなきゃいけないと、
そう思って、ただ急いだ。



伊住さんの家の近く、

向こう側の横断歩道で待つ女子高生の制服は、後ろ姿だけれど、分かる。うちの学校のものだ。

…、もしかして。そう思って目を凝らすと、



……やっぱり。


  伊住さんだ。


だけど。  

どうやら隣に、


       男の人が、いる。


私服の、見たところ年上に見える人。


だけど、僕にはそのとき何にも考えていなくて。

だって、もしも伊住さんに彼氏がいたって、僕が彼女を好きでなくなる理由にはならない。



「……桜ッ‼︎」


僕、こんな大きな声出たんだ。


目線の先にいる彼女は、肩をビクッと震わせて振り返って、その視界に僕を捉えた。


信号の色が緑に変わる前に。


「…すみません、少し、この子とお話させてもらえませんか?」

桜の手を取って、隣の人に了承を得ようと聞く。

その人は、茶色の髪で顔立ちは整っていて、僕より少し背が高い。


男性は、びっくりしたような顔をして、


「え?桜、彼氏いたの〜?何で"お兄ちゃん"に教えてくれなかったのさ〜」


…お兄ちゃん……?


「い、いや、今はちょっと色々違うっていうか」

ドキマギしている桜をよそに、その人は僕を見て、

「どうも!桜の兄で〜す、イケメンくん、どうぞ桜とお話してきちゃって〜」


彼は、オッケー!と右手でグッジョブしたかと思うと、

変わった信号を見て、
バイバーイと手を振って、そのまま歩いていってしまった。