別れたくなんてなかったけれど、
どうやったって重い男にしかなれないから、
だから、「わかった」と言ったけど。
僕たちはどれだけ気まずくても隣の席。
正直、お互い辛いのだと思ってた。
だけど、そう思うのは僕だけで。
桜は…、伊住さんは普通に過ごしていた。
ただの友達だった頃と、同じように。
そのことが…、終わったということを意味していて。
彼女が他の男と話すとき、
今までなら僕が彼氏だったからそこまで思っていなかったけれど、
今の彼女にとって、全ての男が恋愛対象なのだと思うと、狂いそうだった。
光助にも心配されたけど、どうにもならないから
もう、忘れよう。
彼女にとって、僕は必要ない。
そう思っていたのに。
ある日の放課後。もう、彼女と別れて3週間が経ったとき。
隣の席の伊住さんはもう帰っていて、
それに気づいて、ある1人の女子が声をかけてきた。
黒髪ロングで、少しキツめに見えるこの人が何で伊住さんの親友なんだろうって、ずっと思っていた。
「…真城、話したいことがある」
教室にはほとんど誰もいなくて、
「桜、借りるわ」とボソっと彼女は言うと、
僕の隣の席に座った。
「…麻生さん、何?」
僕がそう聞くと、
麻生さんは、すぐに話しはじめた。
「桜は、真城のこと今でも好きだよ。」
衝撃的なその一言で始められたその話は、驚くことばかりだった。
伊住さんは、今でも僕のことを好きでいてくれていること。
自分に自信が持てなくて、ずっと辛かったこと。
他の人のほうが、僕に相応しいと思っていたこと。
「…あんたが絢子と話してるのを見たのが決定打。そりゃ、美人な子と話して照れてる彼氏なんて見たくなかっただろうね」
いかつく睨みながら、そう言う麻生さん。
いつだったか、その記憶を思い出そうとする。
渡辺さんと話して、照れる…?
…いや、いや、それは
「それ、渡辺さんと話して照れたんじゃない。…伊住さんの話で……」
そう言い出す私に、眉をひそめる麻生さん。
その表情が「説明しろ」と訴えかけている。
「…自分は顔しか好かれてないのかと思ってて…、そうしたら渡辺さんが伊住さんが言ってたことを教えてくれて……」
その内容を伝えて、だから、つい喜んでしまっただけなのだと伝えると、
麻生さんは目を見開いて、
「真城、それマジの話なのよね?」
と聞いてくる。
「マジの話です」
そうやって答えると、麻生さんは息を吐きながら天井を見上げて、
「…あんたは、今でも桜を好き?」
そんな、答えがたった一つしかない質問をしてきた。