「…桜はさ、嫉妬とか独占欲って知ってる?」

いつもよりも低い声で聞いてくる彼。

その質問に対しては、
もちろん、自分がそんな感情を持ったこともないし、持たれたこともないけれど…

「れ、恋愛漫画で見たことあるよ!」

彼氏がずっといなかった私は、恋愛漫画でキュンキュンするしかその寂しさは埋められなかったから、漫画上ならわかる。

私がそう返すと、

彼は不敵に綺麗に笑って、

「恋愛漫画だけじゃないよ、現に今僕が持ってる感情だから」


そんなふうに、どこか切なそうに言った。



彼は私の横の壁に軽くを手をついて、もう片方の手の人差し指で

ツーっと、撫でた。

とんでもなく、妖艶な表情で。

「…僕ね、どうにかなっちゃいそうなくらい桜のことが好き」

「だから、もし叶うなら、僕以外の男のことなんて見ないでほしい」

そう言ったかと思うと、

気づけば、私の唇は、


彼の唇に重ねられていた。


驚いた私の顔を見て微笑んだ彼は、
「…もちろん、そんなことできないから、」

「ハルトくんのこと、かっこいいって言っていいよ。その代わり、」



    何度でも、僕で上書きするから。



神様、この人は危ないです。

とんでもなく、危険です。


だってもう、この人にどんどん溺れていく自分がいるんです……。


そのまま映画館に戻って、

「さっきはいじわるしすぎたね、これ見よっか」

と嶺くんが言ってくれて、そのチケットを買ってきてくれた。

私も財布からお金を出したのに、彼はそれを手で抑えて、首を振って

「僕ね、バイトしてたからお金持ってるんだ、だから桜は財布なんて出さないで?」

そんなことを言ってくれるけれど、

「え、そんな悪いよ!出させてよ」

そう言って尚もお金を出そうとする私に、

彼は「わかってないなー」とでも言いたげな表情をして、

「桜はお金なんて気にしないで、デートを楽しむことに専念してください。これは彼氏命令です。」

と、冗談めかしくかしこまって言ってきた。

もう何を言っても聞いてくれなさそうだから、お金を出すことは諦めて、

「…お金払ったって楽しいのに」

とブツブツ言っていると、彼はそんな私を見て目を細めて微笑んでいた。

ポップコーンも買って、ジュースも買って、
シアターに着いたらすぐに映画は始まった。

怒涛の展開に涙が流れてきて、
終わってから辺りが明るくなると、私が泣いているのに気がついた嶺くんは、

「え、泣く要素あった?」

と冷たく言ってきた。

「…だって、最後……ッ」 

言葉にならない私を半ば引きずるように映画館から連れ出す彼。

それでも手を握ってくれるところとか、
私に歩幅を合わせてくれるところとか、  


何気ない仕草に、好きを感じる。