すぐに顔を綻ばせて微笑んだ彼は、スマホをしまうと私の前まで来てくれた。

「…なんか今日、いつもと違うね?」

心なしか嬉しそうに話す彼に、

「ちょ、ちょっとがんばりました。…いや、あの、真城くんがかっこよすぎて直視できないというか…」


彼のあまりのかっこよさに、見つめられないでいる私。

彼は少し屈んで、私の目を間近で見つめてきたから、驚いてしまった。

「…ねぇ、桜。そんなにかわいいのに見てくれなんて、ダメ。」

…唐突な呼び捨てと、唐突な『かわいい』にキャパオーバーの私は、がっつり固まってしまった。

それを見て楽しそうに口角を上げて、

「…今日は、俺のことなんて呼ぶの?」   

そうやって、策士な彼は聞いてくるんだ。 

その瞳に囚われたら、もう目を逸らせなくて。
その綺麗なアーモンド型の目を、

見つめて答えるしかない。


「…嶺くん、です」

そう言うと、幸せそうに微笑んで、

「正解」   

そういって、私の頭を軽くポンポンとしてくれた。
その行動になおさらキュンときてるのに、

「…ほら、行くよ」

そう言って少し強引に手を引く嶺くんは、 
いつもより男の人に見えて、

デートって、一生分のドキドキ使い果たしちゃいそうだなって、思っちゃったんだ。



電車で何駅かして、すぐに映画館のある大型ショッピングセンターについた。

映画館に到着して、さぁ、何見ようかと2人で悩む。

「…桜の見たいやつでいいよ?」

そう言ってくれる彼に、思わず視線の向かった先は、  

「…ハルトくん」

彼氏とのデートに、推しの主演映画を見たがるのはいかがなものかと思っていたからやめていたのに、

気付いたら思わず、ハルトくん、と言ってしまっていた。

それに反応した嶺くんは、

さっきまでとは打って変わって、なんだか読めない表情で、

「…それ見たらさ、ハルトくんかっこいい、とか言っちゃうの?」

そう聞かれて…、なんと答えるべきか考えたけれど、わからなくて、

「うん、たぶん言っちゃうと思う」

ただ、素直にそう答えただけだったのに、


次の瞬間には、彼に手を引かれて、
建物の構造上入り組んだ場所へ連れて行かれた。

人通りは少なくて、
少し喧騒と離れてしまったみたいだ。


彼は、何を思っているんだろうか。

そうして彼の言葉を待っていると、

急に、それでいて静かに、
トン、と背中を壁に押しつけられた。

目の前には、冷たい顔をした嶺くん。