クラス替えの発表は、高2になっても騒がしい。
例外なく、1年の頃から仲の良い友達、ひなちゃんと同じクラスだと知ってとんでもなく喜んでる私、伊住 桜(いすみ さくら)も同じこと。
「ひなちゃんんん‼︎同じクラスだよー1組だよー‼︎やったよー‼︎」
「うん、聞こえてるからね、そんなに肩揺さぶんないで」
ブンブンブンブンと両手でひなちゃんの肩を掴んで喜びの振動を与えていると拒否られてしまった。反省反省。
同じような状態が、さてそれが喜びなのか悲しみかは分からないけれどクラス表の前で多く行われていて。
その中でも、色んな場所から
「1組の真城って誰?」
「この時期だから編入生じゃない?」
と薄っすら聞こえてくる。
私たちの通う高校は実はわりと進学校で、まぁそれはどうでもいいんだけど、系列校が全国各地にある。
だから編入生を迎え入れるのも、そう大変ではない話。なるほど、真城さんという方は編入生なんだね。
…そんなふうに、
頭の片隅に置いたその情報が、
その後凄まじいスピードで、新たなオプションと共に書き換えられるなんて、このときの私には想像もつかないことだった。
「みんなもクラス表で気づいていると思うが、系列校からの生徒が編入してきた。今から連れてきて自己紹介させるから。」
そう言い残して出て行った担任の後ろ姿を見送りながら、クラスは編入生の話で持ちきり。
名前は、真城 嶺(ましろ れい)だそうで、
嶺"くん"なのか、嶺“ちゃん“なのか、議論が交わされている。
確かにどちらでもあり得る名前だけに、現時点でもちろん答えを出せる人なんていない。
それをみんな分かっていながらも盛り上がる教室が急に静まったのは、担任が帰ってきたから。
そして…、
あまりにも顔が綺麗な男子を連れてきたからだ。
色素の薄い茶色がかったサラサラの髪。
これまた色素の薄い瞳に、二重のアーモンド型に綺麗な目。
イケメン、と形容するのも正しいけれど、
王子様、と言いたくなるその完璧なルックス。
私は、何とか動悸を抑えるのに必死だった。
だって、だって、
男性アイドルグループ『My.Light』のメンバーである、私の推し…、
ハルトくんにとっても似ているから…‼︎
「はじめまして、真城嶺です。
両親の仕事の関係で最近こちらに引っ越してきました。分からないことがたくさんで迷惑をかけると思うんですけど、色々教えてくれたら嬉しいです。」
にこやかで、礼儀正しく、謙虚。
まさにハルトくんそのもので、もう正直ハルトくんにしか見えない。
女子からピンクいハートが飛び交う教室内に響いた、担任の「じゃあ早速席替えなー」という声。
いやいや。
まさか、まさかまさか。
「真城です。お名前なんて言うんですか?」
「…あ、えと、伊住桜っていいます。よろしくね!」
ハルトくんの、隣の席になってしまった…‼︎
軽く微笑みながら見つめてくる、
『ハルト』…いやいや、それは流石に失礼だよね。
王子様そのものの真城くんは、
「うん、よろしくね」
私のような一般平民にも、優しく話しかけてくださる…‼︎
「あ、伊住お前帰宅部だよな?放課後、真城に校舎案内頼んでいいか?」
担任に無慈悲に課せられた責務に、
もうひとまず笑顔で「はい!任せてください」とやけになって言うしかなかった。
授業中。
緊張しながら王子の隣に座る私は、
王子が筆箱を漁ってキョロキョロしているのに気がついた。
シャーペンもボールペンも持ってるところからすると、消しゴムかな…?
私は筆箱に入れている消しゴムを取り出して、
「消しゴムなら2個あるから貸せるよ」
と、小声で言うと、
王子はびっくりしたように固まって、
それでも、すぐにふんわりと笑って、
「ありがとう。
伊住さんは気配りの出来る人なんだね。」
と言って、私の手のひらに置かれる消しゴムをそっと受け取った。
私は王子の言葉に否定するように軽く首を振って応えたけど、
そんなことよりも、王子の手が少し私の手のひらに当たったことにドキドキが止まらない。
拝啓 ハルト様
あなたにとっても似た人がやってきたせいで、
隣にハルトくんがいるような気にしかなりません。
大勢のファンのうちの1人である私がそんな神聖な存在に近づいて良いとは到底思えないので、
『推し』である真城くんに、
必要以上に近づかないことをお約束します!
…あぁ、放課後のことを思うと、
心臓が痛くて痛くて堪らない……。



