土曜日、駅に10時に待ち合わせ。

昨日から時間をかけて服を選んだんだ。
真城くんの隣に少しでも相応しくなるよう、5月下旬の気温にも相応しくなるよう、
自分なりに頑張ってみた。

所々に花の刺繍があしらわれた白い半袖に、
薄いピンクのフリルのスカートを合わせて、
少し肌寒いかもと思って薄くてだぼっとしているカーディガンも。

メイクはあんまり慣れてないから、どうしようかなって凄く不安だった…。

だけど、
ひなちゃんに私の持っているコスメを伝えたら、こんなメイクをしなさいと長文のメールを送ってくれたので、

指示通りにメイクをしたら、ちょっとは良い感じ…かもしれない!

髪型は普段通りボブだけど、前髪を少し巻いた。

気合入れすぎじゃんって言われるかもしれないけど、私にとって人生はじめてのデート。
頑張ったって可愛くないことくらい分かっているけれど、たった少しでもマシになりたい。

一瞬でも、可愛いって思ってほしい。

…準備をしていたら、気づかないうちに頭の中は真城くんばっかりだった。

女の子らしくなるように意識して服を着たら、お兄ちゃんに「デート?」と勘づかれてしまったけれど、苦笑いでごまかした。

そのまま玄関へ行って、

お気に入りのカバンを持って、低めのヒールの靴も履いて、家族に「行ってきまーす」と声をかけてから家を出た。

時計を見ると…、うん、ちょうど良い時間。
待ち合わせの10分前には着きそう!


さてさて、家からさほど遠くない駅に到着して、

近くからチラホラ「ハルト」という単語が出ているのに、ヲタクレーダーは察知してしまった。

田舎ではないにしても、アイドルヲタク界隈には超有名人のハルトくんがここに来るとは思えない。


…もしかして。

その予感は的中していた。

柱にもたれかかって片手でスマホを持って誰かを待っているその人。

いつもはストレートのその色素の薄い髪は、かっこよくセットされている。

服はモノトーンで揃えたんだろう、

黒のスキニーに白いトップスは腕まくりをしていて、胸元には黒い翼が象られたようなネックレスをしている。

どう見ても芸能人にしか見えないルックスに、周りがざわついている。

「あの人ハルトかな?」

「超イケメンの人いるじゃん!」


……行きにくい!!

私が超絶美少女だったら「待った〜?」って可愛く駆け寄れるけど…‼︎

周りの視線が怖いよ…‼︎
私、彼に釣り合ってないよ…‼︎知ってるよ…‼︎
もう時間になりそうだから、行くしかない…‼︎

恐る恐る近づいていくと、近づく足音で分かったのか、スマホから目を離した彼とばっちり目が合った。