「…伊住さん、おはよう」

「おはよう!」

朝、学校に着いて、低血圧な真城くんが机に突っ伏して寝ているのを邪魔しないように座るのに、いつも気配で気付かれてしまう。

顔をあげて、眠いらしい彼は朝限定のふにゃりとした笑顔で挨拶してくれる。

これが、私の1日のはじまり。


真城くんは、頭が良い。勉強もできる。

この前何気なく成績を聞いたら、なんと彼はこの前の試験で1桁だったらしい。


…え、1学年300人いるよ?凄すぎない?

あまりにも驚きすぎて目をかっぴらいて固まってしまっていた私に、彼は平然と、


「伊住さんが1位になって欲しいっていうなら、今度とってあげようか?」

とか、とんでもない次元の話をし出したので、

「いやいやいや!今のままで十分すぎるほど十分過ぎてるので!とっても凄いです!」

と焦って返すと、
彼は満足そうに笑っていた。

人に成績を聞いたんだから、自分も言わなきゃなと思ったんだけど……、幻滅されてしまう順位だし。私も勉強頑張らなきゃ…‼︎


そして真城くんは、運動もできる。

男子の体育のサッカーを女子で応援しているとき。真城くんはとんでもなくすごかった。

そういえば彼は、中学校と前の高校とサッカー部だったんだっけ。

目にも止まらぬ速さでドリブルをしながら相手を交わし、的確にパスを回している。

目立とうと思ったら十分目立てるだろうに、
チームの仲間がシュートしやすいように上手にパスでつなげて、自分はシュートしない。

肝心なところは、仲間に決めさせる。  


そういうところが、すごく好きだと思った。


だけれど、真城くんのチームが不利になったとき。

「真城!お願い!」


誰かがそう言いながら真城くんにパスを回した。真城くんの周りにたくさんの相手チームの人が寄ってくる。 

周りを一瞥した真城くんは、ゴールまで一直線にドリブルし出した。

相手が隙をつこうとするのを全て交わして、
とうとうゴールの前まできたとき、一瞬ゴールキーパーを見やったかと思うと、


そのボールは鋭い音をたてて……。


「真城ォォォォ‼︎‼︎」 

彼のチームの男子たちの喜びようで十分伝わると思う。

そう、彼の蹴ったボールは美しい軌道に乗って鮮やかにゴールへと入っていった。

女子たちもみんな「すごーい‼︎」と感動している。

けどなんか、みんな私の方をニヤニヤしながら見てきて、「どう?」とかなんとか聞いてくるから、「す、すごいよね!」と答えておいた。

無事にシュートを決めた真城くんは、
男子たちの輪の中で「すげぇな!」と口々に言われていて、

それに対して「そんなことねぇよ」と言いながら笑っている。

私と話すときは優しい言葉遣いだけど、男子と話すときは少し荒っぽくて、

これが、いわゆるギャップというやつなんだろうか、なんだかむず痒い気持ちになる。