2人で歩く帰り道。

実は私と真城くんの近くはわりと近いことが判明し、真城くんが毎日私の家まで送ってくれるみたい。なんとお優しい…!

だけど、なんとなくよそよそしい…。

私も緊張してるし、真城くんも何か言いたげで。

2人して作っていた沈黙は、真城くんの声によって破られた。

「…ねぇ、伊住さんはさ、僕のこと下の名前で呼びたいとか思う?」

遠慮がちに聞かれたその質問に、
なんとなく、思考を巡らせる。

私が、真城くんを下の名前で呼ぶ……

……うーん。


「…呼びたいよ。だけどね、真城くんって呼ぶだけでドキドキするのに、嶺くん、なんて呼んだら、心臓おかしくなっちゃう」

そうやって答えた私に、真城くんは、

「…君、不意打ちで呼んでくるね…」

とかなんとか言ってから、

「確かに、僕も下の名前で呼んだら死にそうになるかも」

そう言った彼は、急に私の側まで来て、

「…桜、好きだよ」


「…ッ⁉︎」

私の耳元で、いつもとは違うハスキーな声でそう囁いた。

私の反応を見て満足げに笑う彼。

あまりにも破壊力は抜群で、反則技すぎて、顔中が、いやもう身体中が熱い。

「…あの、好きだよ、は準備できてないので…!」

アタフタとそう言う私を見て心底嬉しそうに笑う真城くん。…ちょっとSですか…?

「だからさ、ずっと下の名前で呼んでたらドキドキしちゃうから、呼びたいときに呼んでいい権利をちょうだい?」

心なしかあざとく聞いてくる彼に、
いつだって翻弄されてしまう。

「その権利はあげるけど、程々にしてください……」

真城くんは、呼びたいらしい。

私は、呼ばれたいけど呼ばれたくないよ。
だって、その声が脳裏から消えないんだから。