「真城くん、おはよう!」

隣の席の、真城くん。
昨日、私の彼氏になった人。

「…うん、おはよう」


座って、何気なくボーっとしている彼。
綺麗な顔は相変わらずだけど、なんだかその表情は思い悩んでいるように見える。

「…どうしたの?」

私がそう聞くと、彼は困ったように笑って、

「なんでもないよ」

と言うから、少し気になるけれど…それ以上は聞かないようにした。

登校してきたひなちゃんとお話をしているうちに彼は席を立ってどこかに行ったみたいで、私の隣の席には誰もいなくなった。

…と、思っていたら。

「やぁやぁおはよーイスミン!マッシーと仲良くやってるー?」


その隣の席にどっかりと座った男子は……えっ、私の知らない人だよ、この人!
ヤンチャそうな感じ…。

同じクラスでもないし…、と思っていたら。

彼はニコニコと頬杖をついて、

「俺ね、マッシーの親友の佐野光助(さのこうすけ)!聞いたよ、やっと付き合えたんだってねー」

人懐っこい笑顔でそう言う彼に、

「え、真城くんの親友⁉︎」

と、思わず驚いてしまった。

真城くんって、普段は人を近寄らせないイメージがあるから、親友と聞いて驚いてしまうのも無理はないと思う。

「そうそう、親友なの!だからね、よく相談とか受けててさー、アイツかわいくって」

佐野くんのその言葉を最後まで聞くことはなかった。なんでかっていうと…、

「…勝手に伊住さんに話しかけんな」


何やら大急ぎで戻ってきた真城くんが、
佐野くんの姿を捉えるなり、

座っている私を後ろから抱きしめるようにして、佐野くんから距離を取らせたから。  


「……えっ、真城くん⁉︎」

朝から急に抱きしめられてパニックの私、
ずっと佐野くんを睨んでいる真城くん、
ニヤニヤが限界突破している佐野くん。


「そっかそっか、"伊住さん"かー!」

何やら"伊住さん"を強調して言う佐野くんを見て、真城くんはさらに私を抱きしめる力を強め、

「…光助、黙ってよほんと」

「あと、僕が彼女といる時くらい、気遣ってどっか行ってくれない?」


そうやって、背中に響くような低音で言った。

真城くんは私に後ろから抱きつくようにしてるから、彼の吐息もその低音も私の耳元で響いてドキドキする。

……『彼女』

私が…、私なんかがこの人の彼女なんて、まだ信じられない。

「はいはーい、気遣って消えまーす!マッシーとイスミン、そんじゃあね!」

まるで台風のごとくいなくなった佐野くんは、どうやら他クラスらしい。

佐野くんがいなくなったのを確認した真城くんは、ため息をつきながら私から離れて席についた。

「伊住さん、本当にごめん。あんなのだけど、根は良いやつだから…」

必死そうにそう言う彼を見て、佐野くんの言う『親友』は本物なんだなと安心した。

と、考えていると、真城くんが


「…ねぇ、今日も一緒に帰れる?」

と、聞いてくれたので、

「もちろんです!」

と答えた。

やった…放課後が楽しみになってきた…!