そんな真城くんを見て、私の思っていることが何も伝わっていないということがなんだか嫌になった。

「私ね、最初に真城くんを『推し』にしたいって言ったけど、今はそんなこと少しも思ってないんだ。…なんだろう、特別な、人なんだと思う。」


今の私の、全てを言おうと思ったから、
後先なんて考えず、ただ、ただ伝えた。

真城くんの様子を伺ってみると、
…まるで、してやられた、みたいな顔をしている。

なにか、知らなかったものに気づいたように。

真城くんは一瞬目を閉じると、次に目が合った時には全てを決めたような、そんな意思がそこにはあった。


「だから言ったでしょ、僕は君の『推し』になんてなりたくないって」

その言葉を聞いて、冷や汗。
や、やっぱり今でも怒ってるんだ…‼︎

「ご、ごめんなさ」「違う」


私の言葉を遮った彼は、

これまで見たこともないような、甘くて優しい笑みで、

「僕は、君の『推し』じゃなくて、」
 


「君の、彼氏になりたいんだ」



……………、え⁉︎


「え、そんな、だって、じゃあなんで『推し』にはなりたくないって、」

驚きのあまり、そうやってしどろもどろになりながら聞くと、

彼は、まるでわかってないとでも言うようにため息をついて、

「当たり前でしょ、君にとって同時に存在する2人目の『推し』になんてなりたくないよ。」


「彼氏は過去にいても、今の伊住さんの彼氏になれるのは1人だけだしね?」


そうやって言う彼に、あぁ、まだ誤解は解けていなかったんだと思い出して、 


「…私、彼氏いたことないです」

おずおずとそう切り出すと、
彼は小さく「…うそでしょ」ともらして、

何故だか、嬉しさを隠しきれないというように微笑んだその口元を片手で覆い隠した。

そうしてすぐに、彼は言ったんだ。



「伊住さんの、はじめての彼氏にさせてください。」

誰より美しい、誰よりあたたかいこの人の。

私なんかが彼女に相応しくないなんて、ちゃんとわかってる。

だけど、彼の隣にいるのが私でないのなら、そんなにかなしいことはないだろう。

だから。


「…もちろんです」


その手を取ったんだ。


その日私は、

この人を『推し』として憧れに閉じ込めなくて良かったと、心底思ったんだ。

だってどうせ、その憧れは違うものなんだって気づくんだから。


真城くんは、推しになりたくないらしい。

私だって君を、推しになんてしたくないよ。


                おわり♡