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「今日は本当にありがとう。前原くんのおかげで、結構わかるようになったよ」
オレンジ色に染まりかけた空。
図書館を出てすぐのバス停に立って、勉強を教えてくれた前原くんにお礼を言う。
「本当に送っていかなくて大丈夫?」
「うん、だって前原くん自転車あるじゃん」
「まあ、そうなんだけど……」
そう言って彼が見つめるのは、駐輪場から押してきた自転車。
前原くんはほんの少し何かを考えた後、
「……一緒に乗って帰る?」
「へっ⁉︎」
彼の口から出た言葉に、私は驚いて声を裏返した。
「い、一緒にって、後ろに乗ってってこと⁉︎」
前原くんの後ろに私。想像してドキドキと胸の鼓動が早くなる。だけど、
「そう……でも、やっぱ無理か」
私はまだ何の返事もしていない。
なのに、小さく苦笑する前原くん。
膨らんだ気持ちが、一瞬にしてしぼむ。
無理っていうのは、自転車の二人乗りが禁止されているからだろうか。
それとも……。
「あ、あの……」
あれからずっと、モヤモヤしてる。
気まずくなるのはわかっているけど、このまま何も言わないわけにはいかないような気がして、口を開いた……そのとき。



