「……じゃあ、バスに乗って図書館に行ってたんだ?」
「塾がない日はだいたいね。家よりその方がはかどるから」
前原くんの前には勉強道具。私の前には、棚から適当に取って来た一冊の本。
図書室に入ってから、何分くらい経ったかな?
前原くんの手は、喋りながらでもスラスラと問題を解いていくのに、私の手はなかなか本のページをめくろうとしない。
私には意味さえ分からないような難問を、魔法でも使っているみたいに解いていく前原くん。
同じ授業を受けているはずなんだけどな……と、考えながらその姿をボーっと見ていた。すると、
「望月さん?」
「えっ、あっ、ごめん! 邪魔しちゃってた?」
「ううん、そうじゃなくて。図書室なんかに連れて来て、退屈だったかなって思って」
少し心配そうに言ってくれた前原くんに、
「そっ、そんなことないっ!」
私はぶんぶんと勢い良く、首を横に振った。
その姿に前原くんがクスッと笑う。



