「……大丈夫」
小さく呟いた私の声に、今度は前原くんが「え?」と、聞き返す。
「大丈夫だよ」
首を左右にふるふると振ってから、私はもう一度彼に答えた。
だって、変なことじゃない。
前原くんに声をかけることは、変なことじゃない。
「ごめんね、私っ……」
必死に我慢していたのに、堰を切ったようにボロボロと溢れ出す涙。
俯いて涙を手で拭う私の頭の上に、ポンと優しく温かい感触が乗っかった。
顔を上げてみると、それは前原くんの手のひらで。
「望月さんはやっぱり優しいね」
そう呟いてくれた前原くんは困ったような笑顔で、目尻にはほんの少し光るものが滲んでいるような気がした。
胸の奥がぎゅっと苦しくなる。
ありがとう、ごめんね、すき。
色んな気持ちからくる感情で、心の中がぐちゃぐちゃになる。
優しいのは私じゃなくて……前原くんの方だよ。



