「……何で声かけてくんの?」
咎めるような低い声。
振り返って、じっと見つめてきた真剣な前原くんの表情に、気が動転する。
「そ、れは……」
『好きだから』なんて、まさか素直に言えるはずがない。
じゃあ、何て言えばいいんだろう。
クラスメートだから?
それとも、気になるから……?
何と言っても違う気がして、私は目を伏せて口ごもる。
すると「はぁ」と、小さなため息。
ビクッとして、顔を上げて目の前を見ると……。
「声なんかかけてたら、望月さんが変な人に思われるよ」
静かに微笑んで、前原くんはそう言った。
思ってもみない発言に、私が目を見開いたのは一瞬。
すぐに襲ってきた感情は、泣きたくなるような切なさだった。
さっき、バス停の前で顔を逸らした前原くん。
それは怒っていたんじゃなく、私のため……。
自分に話しかけて、同じようにいじめられないように……って、気を遣ってくれていたんだ。
もしかして、あの時玄関で無視したのも同じ理由?
私のために、わざと離れてくれてたの?
声に出して聞いてみようと思ったけど、わざわざそんなことをしなくても分かった。
少し困ったように微笑んだ彼の表情が、全てを語っているような気がしたから。



