朱里たちと何でもない話をしながら、足を踏み入れた教室。

ふたりの目を盗むように、密かに私が目を向けたのは、入ってすぐの前原くんの席だった。


いつもそこで静かに読書をしていた姿は……ない。

教室の中を見渡してみても、彼はいない。


さっき玄関で見たから、学校には来ているはずなんだけど。

一体どこに行っちゃったんだろう……。


挨拶をしようと思っていても、最近いつもこう。


どちらかと言えば遅刻がちな私とは違って、朝早い前原くん。

少し前までは、ホームルームが始まるそのときまで、自分の席で本を読んでいた。

それが最近、時間になるまでどこかに行っているみたいで。
放課後は放課後で、私が梨花たちと一緒にいるうちに、いつの間にかいなくなってしまってる。

だから、話なんておろか挨拶をするタイミングさえも、なかなかなくて。

今日こそはと思って、自分からタイミングを作るつもりで早く来たのに……結局こうなってしまってる。


少し傾いた前原くんの席にそっと手をかけて、さり気なく位置を直したときだった。


「実優ー、何してんの? 早くおいでよ」

「あっ、うん!」


先に行ってしまった梨花に呼ばれて、私は慌ててふたりに駆け寄った。