「……」


どうしてそこまで分かっていて、気付かないんだろう。

どうして私が前原くんを“好き”だとは、思わないんだろう。


朱里はただ、前原くんがいじめられているから、気にしてあげているんだと思ってる。

ただの同情。それ以上の感情があるなんて、これっぽっちも思っていない。

一度ならず二度までも、そんな風に言われたら、まるでダメなことだと言われているみたい。


前原くんを好きになることが、いけないことだと言われているみたい……。


「そろそろ梨花も来るね、教室戻ろっか」


大きな壁掛け時計を見ながら言った朱里に、こくんと頷く。

前原くんのことについては、わざと返事しなかった。



本当はね、朱里たちに前原くんのことを相談したい。

好きになっちゃったんだけど、どうしたらいいかなって、素直に相談してみたい。


……普通の初恋みたいに。


でも、ふたりの様子からして、とてもじゃないけど本当のことは言い出せない。

だってもう、ふたりが前原くんのことを悪く言うのは聞きたくない。