先生が来たのかも……と、一瞬期待したけど、違う。


「前原、靴キレイにしてやったから!」

「バイバーイ!」


私の横を通ってすぐ響いた、男子の楽しそうな声。

振り返ってみるとそこには……前原くんが立ち尽くしていた。


「……」


何ていうタイミングだろう。

驚いてしまって、声が出ない。


男子達の足音は、パタパタと遠ざかり、残された私は……玄関に前原くんとふたりっきりになった。

こうして真正面から顔を合わすのは、教科書を隠されたあのとき以来。


「あ、の……」


重なった視線に、何か言わなくちゃって、口を開いた……瞬間。


小さな風が、私の横をスッと通り過ぎた。

それは、前原くんが私の横を通り過ぎていって、起こったもの。


追いかけるように振り返って見ると、前原くんは自分の下駄箱へと手を伸ばしていた。

少し離れた場所からでも分かる。

白いスニーカーの中に詰め込まれた、ゴミの山。