無表情にも見える顔。

他には誰もいない教室。
響くのは前原くんの足音だけ。


「あのっ……」

「ありがとう」


『違うの』って、慌てて声を上げようとした瞬間だった。

前原くんは私の手から教科書を受け取って……微笑んだ。


「……」


……何が“違う”んだろう。

自分が言おうとした言葉が恥ずかしくて、下唇を噛む。


何も違わない。そればかりか、この期に及んで自らを庇おうとした自分。

ありがとうなんて言わないで。


「私は何も……」


無邪気な笑顔が刺さるようで、俯きながら言った……そのとき。


「実優ー。ノートならわたしが借りて……」


声と一緒に、突然ひとりの女子が教室に入ってきた。

それは……朱里。