「さては、また彼氏とケンカしたな?」

「っ、違うから!」


廊下を歩きながらも、話題はさっきの続き。

ふたりは……私の周りは、何も変わらない普段通りの日常。

前原くんがいじめられていても、それが直接私達の会話の中に上がることはない。


こうしていると、どこか他人ごとで。
さっき教室で起きたこと、確かに感じた憤りさえも、忘れてしまいそうになる。

見て見ぬふりをすることは簡単……だけど。


「……実優?」


突然ふたりが足を止め、振り返った。
理由は私が立ち止まったから。


「あ……ごめん。理科のノートと間違えて、数学のノート持って来ちゃったみたい。取ってくるから先に行ってて!」


ふたりに向かってそう言うと、私は踵を返して走り出した。

向かった先は、もちろん教室だけど……決してノートを取り間違えたわけではない。