じゃあ、どうして前原くんの手元に教科書がないのか。

それは……隠されてしまったから。


授業が始まる少し前。

休憩中、前原くんが席を立った隙に、クラスメートの男子数人が、机の上にあった教科書を掃除ロッカーの上へと隠した。

戻って来た前原くんは、当然教科書を探していたけど……とうとう見つけられないまま、チャイムは鳴ってしまった。


前原くんが本読みをしている間も、微かに聞こえる嘲笑。

教科書を隠されたり、意味もなくバカにするみたいに笑われたり、こういうこと……今日が初めてじゃない。


あれから。田澤くんに邪魔だと言われたあの日から少しずつ、みんなの前原くんへの接し方がおかしくなった。

簡単な言葉で表すとすれば……いじめ。

一体何が原因なのか分からない。だけど気付いたときには、前原くんはいじめの対象になっていた。