勉強机の上に置いたスマホ。その電源を入れようとして……入れられなかった。
金曜日。
前原くんの最後の登校日。
彼がいじめられていることを先生に話した私は、結局教室に戻ることが出来なかった。
午後からはずっと保健室にいて、先生に荷物を取って来てもらって、みんなより少し早く下校させてもらった。
だから……あれから前原くん以外とは話していないし、会ってもいない。
スマホにも誰からの連絡も来なくて、怖くなって電源を落としたのが、金曜日の夜。
電源を入れたとして、やっぱり誰からの連絡もなかったとしたら……。
そう考えると指が震えて、ボタンを押すことなんて出来なかった。
そしてそのまま……学校に行く勇気もなくて、休んでしまった。
ベッドからゆっくり起き上がって、勉強机の前に立つ。
電源が落ちたままの、真っ暗な画面のスマホ。
朱里や梨花のことを信じてないわけじゃない。
だけど不安にならずにいられないのは、私が一番よく知っているから。
輪の中からはみ出したくない、いじめられたくないという気持ちも。
本当に大切に想ってるのに、自分が一番になってしまう瞬間があることも。



