はじめは少し話せるだけで良かった。
女の子が好きになる男の子なんか、だいたいスポーツ万能なクラスの中心にいるような奴で。
田澤くんが望月さんのことを好きだと知ったとき、勝ち目なんかないと思った。
だから……せめて思い出として、一緒に過ごした時間が欲しかった、それだけ。
本当にはじめは、あの日直の時間だけで充分だったんだ。
……それなのに。
望月さんが、田澤くんのことを好きなわけじゃないとか言うから。
いじめられていても、話しかけてくれるから。
少し勉強が出来るだけの自分をすごいと褒めてくれて、頼ってくれるから。
心配して走って来てくれて、自分のために泣いてくれるから。
告白に頷いて、笑顔を向けてくれたから──。
嬉しいことは日を追うごとに重なって。
望月さんに近付けば近付くほど、どんどん欲張りになっていった。
自分は冷たい人間だから、ひとりで良いと思っていたのに、いつしかひとりじゃ嫌になって。
隣にいてほしいと思うようになっていた……。
人のあたたかさを教えてくれたのは、望月さん。
「嬉しい気持ちを沢山くれた望月さんには、本当に感謝してるんだ」



