別に見返りとか下心があったわけじゃない。だけど、
「え……」
突然声をかけられ、カイロを手渡された彼女は当然のごとく驚いた顔をして、戸惑った声を上げた。
その瞬間、ハッと我に返る。
自分自身の行動にびっくりして、それから急に恥ずかしくなって。
「っ、ずっと震えてたから」
言い訳でもするみたいにひと言そう告げると、逃げるように自分の席へと急いだ。
話したこともないのに、何してんだろ。
知らない人にカイロなんかもらったって、気持ち悪いだけなのに……。
出来るなら時を戻してしまいたい。
そんなことを考えるほど後悔しながら、席に着いた。
でも、自分に時を戻す力がなくて本当に良かったと思う。なぜなら……。
やっぱり嫌われてしまっただろうかと確認するように、振り返ってみた。
すると、自分の目に飛び込んできたのは……柔らかく微笑んだ、彼女の表情だった。
自分の手渡したカイロをぎゅっと握りしめて、彼女は……望月さんは微笑んでくれていた──。



