「えっと……」


どうしたらいいか分からず、とりあえず口を開いた。その次の瞬間、


「ふっ……」


目の前の光景に、私は自分の目を疑った。


だって……笑ってる。


前原くんはクスクスと、控えめにだけど笑っていた。


初めて見る彼の表情に、私は自分の失態も忘れてポカンとする。


「あぁ……ごめん。望月さんがあんまり一生懸命言うから、おかしくて」


メガネの奥、目尻に溜まった涙を拭いながら謝る前原くん。


「う、ううん……」


私はやっと腰を下ろしながら返事するけど……違う。

ポカンとしてしまったのは、自分が笑われてしまったからじゃなくて。

前原くんが……笑ったからだ。


1年のときも同じクラスだったし、3年になって3ヶ月近く経とうとするけど……笑顔を見たのは、初めてだった。

だけど、そんなことを素直に言えるわけがなく、彼の表情をただ見つめていると、


「でもさ……違うなら何で、今みたいにはっきり言わないの?」


「てっきり田澤くんのことが好きなのかと思った」と、続ける前原くん。