「おい、何やってる!!」
ガラッと開けられた引き戸から現れたのは……先生。
数学を受け持つ、五十半ばの男性教員。
「前原っ!?どうした!?」
ただならぬ教室の雰囲気に、一瞬先生は顔をしかめるけど、すぐに怪我をして倒れている前原くんに気付いてくれた。
先生の登場と、前原くんに駆け寄るその姿にホッとして、私は全身の力が抜けそうになった。
良かった……と、安堵したのもつかの間。
「違うんです、先生。こいつが先に喧嘩ふっかけてきて……ちょっとど突いたら転んじゃって」
悪びれる様子もなく告げられた言葉に、頭の中が真っ白になる。
え……今、なんて言った?
前原くんが先に喧嘩ふっかけた……?
怒りでふるふると、ぎゅっと力を込めた拳が震える。
「俺もこいつに胸ぐら掴まれて──」
「違いますっ!」
もう我慢ならなかった。
私は大きく叫ぶように男子の言葉を遮った。
もうこれ以上前原くんを傷つけないで。
もう、やめて──。
「違います、私が全部話します」



