「ごめん待たせて」
「あっ、ううん! 私の方こそ……」
小さな薬箱を片手に、戻ってきた前原くんは目の前にしゃがむ。
すると薬箱の中から取り出した消毒液を、
「少ししみると思うけど……」
私の膝の傷口に、シュッと吹きかけた。
「っ………」
覚悟はしていたけれど、それでも痛い。
時間が経って鈍くなっていた痛みが、消毒剤をきっかけにジンジンと再び襲ってくる。
つたい落ちそうになる消毒液と、傷口の汚れを取るように、ポンポンとガーゼをあててくれる前原くん。
何で………。
何で私なんかのために……。
思い出したように襲ってきた痛みは、膝の傷だけじゃなかった。
手当をしてくれている彼の姿を見ていたら、心臓を掴まれたかのように胸が苦しくて。
私はギュッと下唇を噛んで、我慢する。
……泣いちゃだめ。
ここで泣いたら、本当にただずるい人間になっちゃう。
泣くな、泣くな、絶対泣いちゃだめ。
必死に自分自身に言い聞かせているのに、視界は滲んでいく一方で。
「望月さん……?」
この距離じゃ、誤魔化しようがなかった。



