言いたい、言えない、キミが好き。


ぶつかっちゃったって……。


少し当たったくらいじゃ、机は当然倒れたりなんかしない。

決定的瞬間を見ていたわけじゃないけれど、わざとだってことは、すぐにわかった。

そして、


「何やってんだよ。早く体育館行こーぜ」


教室から一歩足を出して、男子に声をかけたのは田澤くん。

彼の言葉に「おー」と軽い返事をして、男子はそのまま平然と教室を出て行く。

すると、一度は静まり返った教室もまた、何事もなかったように騒がしさを取り戻した。


前原くんの机もお弁当もひっくり返ったまま……なのに、気にする人は誰もいない。

いや、違う。


「わ、もう汚いっ」


悲鳴にも似た声を上げ、散らばったお弁当を避けるように椅子を動かす女子。

前原くんは黙って机を直すと、しゃがんでそれを拾い始めた。


見るからに理不尽で、あり得ない光景。

それなのに、前原くんを心配する人は誰もいない。


何でっ……。

箸を持つ手にぎゅっと手に力を込めながらも、私にクラスメートを非難することは出来ない。

一番ずるく、都合のいい人間は私なのだから。